広島の建築家 岩本秀三建築設計事務所

呉の街に本当の独自性があるか

広島県建築士会呉支部報1996年3月号

都市,特に地方のなかの地方都市と言われる様な街の場合そのなりたちや発展の経緯はそれぞれに違いは有りますが,その事を論じようとする時の切口は多様にあると思います .

他の都市から来た人からよく「呉という街は,静かな街ですね」と言われることが多い,その事は,言い換えれば活気のない街ですねと言われているに他ならない.同時に,この街の特徴として,山の斜面に張り付くように建っている住宅の都市景観が魅力的ですね.とも言われる. 近年,確かに蔵本通りや今西通りに見られる様な美しい都市整備がなされてきているのは事実ですが,その事が,都市の活性化にどう関係していくのか,又,他都市の同様の整備と何処が違うのかということをふと考えさせられる事があります.

呉というと-煉瓦建築-と短絡的に結びつける傾向にあるように思いますが,なぜ煉瓦なのでしょうか?確かに現在の海上自衛隊呉総監部とか自衛隊の潜水艦基地に隣接する貿易倉庫の様に本物の煉瓦建築には魅力を感じますが,あくまでもその魅力は,本物の煉瓦を積み上げて構成されている建築の持つ魅力であって,煉瓦自体を単に魅力的に見るものではないと思います.その事は,現代建築に煉瓦タイルを貼ることとは根本的に違うものだと思います.もしもそのような表層的な意味程度で捉えているとしたならば,そのことに内在するあらゆる意味の危険性に気付かなければなりません.何故ならば一種の過去の栄光のすり替えとしてのこだわりの様に感じるからです.もしそうであったなら,目前に迫る21世紀への展開が危ぶまれるような気がするからです.これからの呉という街の将来像を本気で考えるとき,現在という時代にあらゆる意味で敏感であることが求められていると思います.

建築の設計は,初めに形ありきでは無く,その建築が建つ場所の持つ場所性 (CONTEXT)をどう読みとるか,という事から始まり,その場所性を手がかりに全体としての内外部空間を構想することだと思います.その事はとりもなおさず,建築と都市との関係性を考慮しなければ成立しないと思います.呉には,呉の独自性が求められ,ある意味では,市の施設である公共建築とか公共施設と一般的に呼ばれる都市施設にはその事が必要条件として求められるものだと思います.スペイン風とかイギリス風とかの言葉を耳にしますが,・・・風というものは,どの様にしようとも本物にはなり得ないもので,日本の建築界や意識レベルの高い行政を執行する人々は最早やその様なことを言うことの無意味さを認識している.もし未だそのようなことに気付かないとしたら,結果として陳腐なものを無意味に増殖させるだけであると同時に,広い意味で公害になりうると思う.少々表現が不適切かもしれないが呉に住む建築士の間で少しでも疑問を持って論じてもいいのではないかと思っている.

今回,「学校法人呉武田学園 呉港高等学校 武道場」で呉市優秀建築物表彰を授かりました.この作品は,おそらくかつての受賞作品の中では規模でいうと最小ではないかと思います.この事は今迄の傾向として,規模の大小が取り沙汰されて来たように感じていた私には少し意外でしたが同時に喜びも一層でした,設計事務所をしている仲間からも同様の言葉をかけられた時,みんな同じようなことを思っていた事を知りました.呉のような小さな地方都市に於いて,都市を形成する建物で,規模の大きなものは全体の何パーセント有るでしょうか?,恐らく予想すると20パーセント有るか無いかだろうと思います.中小の建築が大半を占めていると言う現状を思うと,規模の大小や恣意にとらわれない客観性を基に本当の意味で建築の質を問う事が先決だと思うのは私だけでしょうか?言い換えるなら地元の建築士の作品がどんどん対象として応募できる環境整備を進めながら,同時に日常活動の励みになるきっかけづくりへとつなげて頂ければと思います.

最後に大きい規模の建築はただそれだけで,意図に関係なく迫力を持ってくる.それだけに本当の意味で建築の意味と質とは何なのかを建築士自ら再考しなければならない.


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